エクアドル事業の幕切れ

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~現場担当(1996年―2003年)の視点から~

辻 貴行

 1993年、海外林業コンサルタンツ協会によるエクアドル調査に向後代表が参加した際「50mを超えるマングローブの巨木がエビ養殖池の造成で伐採の危機にある。助けて欲しい」と、現地で保全活動を始めていた中央省庁所属のフリオ氏から訴えを受けた。これがきっかけで1994年、ACTMANGはエクアドル北部エスメラルダス州マハグアールでの保全活動に着手した。フリオ氏と連携しながらエビ養殖業者との対話、樹高63.8mと判明した世界最高木(ヒルギ科 Rhizophora harissonii)を擁する原生林の調査、エコツーリズム、地域コミュニティへの啓発・環境教育などを実施していた。ところが、1997年フリオ氏が忽然と姿を消した。ムラの噂では汚職に関わり、もうマハグアールには戻ってこないだろうとのことで、実際その通りであった。

 我々はパートナーを失ったものの、その後も最寄りの漁村オルメド(人口約600)の女性組合との協力関係を築き、地域の生活・生計向上に取り組んだ。モーターボートや宿泊も可能な活動拠点も整備し、マハグアールでの調査や女性支援の活動を重ねた。女性組合と手を組んだ決め手は、村には他にも2、3の団体があり陳情も受けたのだが、唯一、建設的な議論ができるリーダーのジェシカ氏がいたからである。

2002年、山あり谷ありの女性組合への支援も5年が経過、あとは彼女たちの奮闘次第、文字通り紆余曲折があったマングローブ調査・保全活動も9年継続し、マハグアール・オルメドでの協力は潮時との結論に達した。むかえた2003年、最終年の初回派遣で想像を超える幕切れとなった。

 2003年2月、我々がマハグアールで水位計を設置し終えると、40名ほどのグループと鉢合わせになった。エクアドル各地から集まった環境活動家たちだった。中心人物はオルメド村で漁業系の組合を代表しているルイジ氏であり、外では「私は村の代表としてマングローブ保全に全霊をささげている」と吹聴しているが、村人の代表でもないし、エビ養殖業者や政府への敵対行動に特化し、地域の植樹には参加しないタイプの活動家である。彼らのイベントに我々の調査が重なったのは全くの偶然だが、ルイジ氏にとっては地球の裏側から鴨がネギをしょって来た千載一遇のチャンスだったはずだ。

ルイジ氏は「マハグアールの管理権は我が組合しか保持しておらず、ACTMANGは違法に調査を続けているバイオパイレーツである」と言い、まったく経緯の分かっていない参加者に「出ていけ」と恫喝され、やむなく調査を中断してオルメド村に戻った。夜になるとオルメドに民泊していた活動家たちが我々の活動拠点に上がり込み、昼間の議論を蒸し返したあげく「ACTMANGは違法に調査をしているのだから、施設とボートを村に譲渡し村から出ていくとの書面にサインしろ」との要求をしてきた。むろん支離滅裂な言いがかりには断固反論もしたが多勢に無勢、我々は活動家により施設から追い出され、女性組合員の数軒に分かれて一夜を明かした。その晩は女性組合(15名)、一部の村人も合わせ80名ぐらいが居合わせていたのだが、活動家グループ内でも調査の違法性、ボートと施設の利権、調停など論点がバラバラだし、村人同士、女性組合同士の口げんか、(後で判明したが買収されていて)とつぜん我々に敵対する村人も現れる始末で「(運が悪いとは言え)こんな連中にやり込められてしまったのか」「人間の私利私欲はすげえな」が率直な感想であった。活動家は翌日解散し、ルイジ氏とは平行線のまま我々はオルメド村を後にした。後日相談した弁護士によると、活動家たちは議員とも通じているので本件こじれる可能性ありとの見解。これでマハグアール撤収のハラが固まった。

 今でも悔しく、最後まで我々と一丸となり戦い抜いた女性組合員やオルメドの村人に申し訳ないのは、活動家に手柄を与えてしまい、その後のフォローが出来なくなってしまった事である。現場のムラレベルでの教訓としては、反対(逆恨み含む)派が先鋭化しないようにスキを与えず、とは言え妬みや欲を侮らず上手く付き合うことがあげられる。ただ、それ以上に重要な点はフリオ氏のような現地側パートナーの存在、協力である。現地パートナーは活動に対する全面的な助言、許認可、地域住民の説得など、よそ者では対応が難しいところを的確に調整、サポートしてくれる不可欠な存在で、パートナーとよそ者(ACTMANG)の関係こそが活動の成否を左右する土台であると断言できる。

最後に、エスメラルダス州では散々な幕切れであったが、マナビ州やグアヤス州では多くの協力者に恵まれ、当地の活動とも連携しつつ、植樹祭、環境都市宣言、写真展など、多様で充実した事業を実施することができた点を書き添えたい。

なお、文中のエクアドル関係者の名前は、すべて仮名であることをお断りしておく。       以上

(マハグアール林内での歩行は困難であったが、見上げると樹冠はまばらだった)

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